金融庁は保険仲立人(ブローカー)に関する規制を見直す。企業がブローカーと保険代理店の両方を同時に使えるようにしたり、利益相反への懸念を解消したりする案を検討し、ブローカーを利用しやすくする。
中古車販売店大手の旧ビッグモーターによる保険金不正請求や、大規模な情報漏洩など保険代理店に頼った販売の弊害が噴出している。企業が保険契約を検討する際の選択肢を広げ、保険市場の正常化を急ぐ狙いだ。
27日に初会合を開く保険業法改正に向けた金融審議会の作業部会で、ブローカーに関する規制見直しを議論する。議論の結果を踏まえ、保険業法や監督指針の改正に着手する方針だ。
代理店は保険会社から委託を受けて、保険会社のために保険募集を行うのに対し、ブローカーは保険契約者の委託を受けて、契約者のために誠実に保険契約の締結の媒介(注1)にあたる。
(注1)「保険契約の締結の媒介」とは、契約成立のために尽力する行為をいい、保険商品に関する説明・勧誘のほか、保険料収受関連の事務も含むと考えられている。なお、保険会社から委託を受けた代理店の代理行為は契約締結そのものの行為となるため、それにより直ちに保険責任を開始させることができる等の点で媒介行為とは異なっている。
ブローカーは、保険会社を代理して契約を交わす保険代理店とは立場が異なり、保険会社から独立した立場での助言を期待されている。
1990年代の保険自由化の際に日本でもブローカー制度が導入(注2)されたものの、2023年度のブローカーの元受正味保険料は915億円(シェア0.9%)と、保険代理店の9兆2,291億円(シェア90.2%)に比べて存在感は薄い。
(注2)従来わが国に保険ブローカー制度が存在しなかったのは、法制上の規制にもよるが、次の理由によると言われている。
❶保険料が安価であることからリスク処理を保険に転嫁することが多いこと
❷保険会社間で契約条件・保険料水準にそれはどの違いがないこと
❸再保険・共同保険が幅広く存在すること
❹保険会社によるリスク制御のためのサービスが充実していること
❺代理店乗合制度がブローカー的な役割を有していたこと
金融庁はブローカーの使い勝手の改善が、企業がより良い内容の保険契約を結ぶ上で重要だと判断し、ブローカー関連の下記規制改正に乗り出す。
- ブローカーと保険代理店の協業を禁じる規制の見直しを検討する。
企業がブローカーと保険代理店の両方を同時に使えるようになれば、複数の意見を聞いた上で保険契約を検討できるようになる。ブローカーと保険代理店が提案内容を競い合うことにもなり、保険代理店の提案能力の向上にもつながる。
- ブローカーの主な収入源である手数料に関する規制緩和も検討する。
今は保険会社の側からしか手数料を徴収できないが、契約者側からも手数料を受け取れるよう制度の見直しを議論する。
保険会社から手数料を受け取る今の制度では、企業側が「ブローカーが保険会社に有利な保険契約を勧めるのではないか」との疑念を抱きかねない。利益相反の恐れを解消すれば、企業はブローカーに保険契約の見直しなどを相談しやすくなる。ブローカーが浸透する欧米でも、依頼者である企業からも報酬を受け取るのが一般的だ。仮に制度が改正されれば、保険会社、契約者、ブローカーの3者で誰が手数料を支払うかや手数料の水準を決めることになる。
(3)ブローカー事業に参入する際、必要な保証金の最低額を2000万円から1000万円程度に引き下げ、参入を促すことも議題となる見通しだ。
金融審の作業部会では、保険代理店の規制強化の是非についても検討する。複数の保険会社の商品を扱う一定規模以上の乗り合い代理店に対して、コンプライアンス担当者の設置を義務づける案などを議論する。
金融庁はブローカーと保険代理店の制度改革を同時に進め、不祥事の原因となった保険会社と保険代理店のもたれ合いの関係を早期に改善したい考えだ。