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風力など再エネ保険料が高騰、増設の壁に 太陽光は2倍(2023年12月28日 日経新聞の記事を中心に)

再生可能エネルギーの発電設備の故障に備える損害保険料が高騰している。保険料の基準となる料率は過去5年で複数の損保で約2倍になった。再エネ保険料の高騰は事業者の収益を圧迫しており、事業継続や設備の増設に水を差しかねないとの懸念が出ている。

  • 太陽光発電

大規模な太陽光発電所(メガソーラー)を運営する事業者は危機感を抱く。保険料の上昇に加え、水災による保険金の支払限度額が数年前に設定された。太陽光は災害による損傷に加えケーブルの盗難も相次いでいるが、盗難については補償外となる可能性がある。(注1)損保会社の引き受け方針の変更で必要な保険がかけられず、事業を続けられなくなるとの不安を抱く。

(注1)太陽光発電ではケーブルの盗難が社会問題化している。銅の価格上昇に伴って被害が多発し、稼働できなくなる事業者が続出。損保は盗難被害を補償外にしたり、災害による保険金支払いの増加を受け免責金額や支払限度額を設定したりと、引き受けの厳格化に動く。メガソーラー事業者が負担する保険料は年間1億円を超えるケースもあり、収益に与えるインパクトは大きい。

  • 陸上風力発電

陸上風力発電施設は落雷によってブレードが壊れ、多額の保険金が発生する事案が発生しており、保険料は上昇傾向にある。海外メーカーから輸入するのに時間がかかり、その間に減少する売り上げの金額が大きくなりやすいことなどが背景にある。

  • 洋上風力発電

普及が期待されている洋上風力も、保険という観点で見通しは不透明だ。災害の懸念が強いアジアでのプロジェクトに対しては、引き受けに積極的な保険会社が限られ、再保険料が上昇している。洋上風力で先行する台湾では、台風による事故も多く「日本も台湾のようになれば、保険の引き受けはますます厳しくなる」(損保大手関係者)との声がある。

  • バイオマス発電

バイオマス発電所でも火災が相次ぐ。燃料となる木質ペレットに原因があるとみられ、一度の事故で多額の損害が発生しやすい。当初のリスク想定を上回る状況となっており保険料が上がっている。

 

保険料の高騰は再エネ発電設備の新規建設をちゅうちょさせる一因となりかねない。ある事業者は「電力の買い取り価格の下落や保険料の上昇で、発電設備の新設は採算が合わず計画していない」との状況だ。既に完成している発電設備の買収などによる事業拡大を検討しているという。

損保各社は脱炭素社会の実現に向け再エネ事業者などへの支援(注2)を打ち出すが、保険金支払いが増加している状況では保険の提供を引き締めざるを得ない。

(注2)損保はリスク低減に向けたサービスを展開しており、例えば損害保険ジャパンは太陽光発電のケーブルを銅製からアルミ製に切り替える提案を2023年11月から始めた。

 

再エネ事業の推進にはメガバンクなどの融資姿勢も影響する。これまでは融資条件として、再エネのプロジェクトが抱える全リスクを損保に引き受けてもらうよう事業者に要請してきた。保険でカバーするリスクを減らしたり融資額を増やしたりするなど、業界関係者は「レンダー(貸し手)も含めてリスクを分担する必要性が高まっている」と指摘する。民間の金融機関だけではリスクを抱えきれず「政府の関与を検討する必要があるのでは」との声もある。

世界の再生エネの普及は加速する見通しだ。2023年12月にドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、再エネを2030年までに現状の3倍に拡大する方向性を明記した成果文書を採択した。日本での取り組みが後れを取らないよう、官民をまたいだ議論を加速させる必要がありそうだ。

     

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