損害保険大手3グループが政策保有株の売却を増やす。2022年度に3社合算の削減目標は前年度から15%増やし、2023年度以降もさらなる削減を検討する。資産運用会社がガバナンス強化の観点から政策株の保有額について厳しい基準を設けていることが背景にある。株売却で生まれた資金は防災やデジタル事業に回し、資本効率も改善する。
損保は、明治・大正期の創業以来、企業から保険契約の見返りに株式を保有するケースが多かった。その時価総額は長期投資で膨らみ、削減が課題となっていた。
財務に与える株価変動の影響を抑えることを目的に東京海上が2002年度から売却を始め、2021年度までに簿価ベースで7割減らした。MS&ADとSOMPOは2010年度ごろから本格化した。3社の政策株は日本経済新聞の推計込みで2022年3月末時点で計1兆8249億円と2010年3月末から4割強減った。
<損保が政策株の削減を進める理由>
まずは、機関投資家からの圧力がある。米国の議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が22年2月から政策株の保有額が純資産の20%以上の場合、経営トップの取締役に反対を推奨し始めた。3メガ損保は6~9割となり、基準を大幅に上回る。特に日本に拠点を持たない海外投資家が賛否判断の際に助言会社の推奨を参考にすることが多い。
さらに2025年に導入予定の新資本規制では保険契約の期間と保有資産の償還までの期間
の乖離をできるだけ縮めることが求められる。大手損保の運用ポートフォリオに占める国内株式の比率は10%程度とみられる。ある機関投資家は「損保は短期契約が多く、国内株式の投資比率は3~5%程度で十分では」と指摘する。
助言会社の純資産を用いた新基準は「損保にとって達成が極めて難しい」(機関投資家)。損保は保険契約に伴って巨額の負債を保有し、預かった保険料を運用することで将来の保険金支払いに備える収益構造だ。資産の大半が運用資産となり、過去からの株式投資の時価総額が増加している。このほぼ全てを「政策株」に分類している。
それでも同様の基準が資産運用業界に広がり始めたため、大和アセットマネジメントは22年11月から政策株が純資産の20%以上で、縮減の取り組みが十分と判断できない場合、代表取締役の再任に反対する。野村資本市場研究所の西山賢吾主任研究員は「保有の合理性が薄い株式の売却量やスピードを高める必要が生じる」と話す。
金融業界では銀行も政策株の売却を進める。3メガバンクは2024~2025年度までに1社あたり年平均で600億~1600億円規模の削減を計画し、株売却で浮いたリスク資産を活用した資金供給を増やす。
三井住友トラストHDは政策株を全て売却し、そこで得た資本の余力を生かして脱炭素関連に5000億円出資する方針を掲げる。この一環でビル・ゲイツ氏の脱炭素ファンドへの出資も決めた。大手投資家として脱炭素関連の有望な事業の知見や、投融資ノウハウを身につけ、国内の取引先企業に還元する。
国内損保は人口減や災害多発で事業環境が厳しい。3メガ損保は株売却で生まれた資本を使い、海外M&A(合併・買収)やデジタル、防災などの新事業への投資を増やす方針だ。