日本企業はグループ内の保険代理店(インハウス代理店、機関代理店等と呼ばれている)が契約締結の窓口となることが多く、その専門性の低さが大手損害保険会社がカルテルを疑われる行為に手を染める土壌を作ったと指摘されてきた。企業が抱えるリスクに通じた代理店が増えれば、不適切な契約が多発する現状の是正につながる可能性がある。
マーシュの日本法人、マーシュジャパンが今月(2023年10月31日)、大手代理店のエムエスティ保険サービスと折半出資で設立した新代理店「MSTマーシュ」の営業を開始した。売上高が300億円から2千億円程度の中堅・大企業を対象に、企業が抱えるリスクに対応した保険内容を提案し、契約締結に結びつける。
火災保険や賠償責任保険といった伝統的な保険だけでなく、サイバー攻撃やサプライチェーン(供給網)の断絶といった新たなリスクへの対応も助言する。
マーシュはこれまでも保険ブローカー(仲介会社)として、企業の損害保険契約締結の仲介をしてきた。ブローカーは企業から委託を受け、買い手の代理の立場で保険契約の締結を媒介するため、損保から委託を受ける保険代理店よりも企業の利益に沿った提案や助言ができるとされる。
ただ、日本でブローカーは根付いておらず、ブローカー全体の国内シェアも1%程度と低迷している。三菱UFJ銀行の顧客などに保険を販売し、金融機関系の代理店としては最大規模のエムエスティと組むことで、顧客基盤の拡大を目指す。代理店という形態を採るものの、ブローカーとして世界各地で蓄積したノウハウや専門知識を活用する。
損保業界を巡っては、損害保険大手によるカルテル疑惑が噴出している。現時点で独占禁止法の趣旨に反する不適切な行為があった取引先企業の数は少なくとも計100社超に上っているが、「保険契約の内容を調整する能力が代理店にないことが不適切な行為の多発の背景にある」(関係者)と指摘されている。
マーシュの新代理店が目指すように、代理店が顧客企業が抱えるリスクを的確に把握することになれば、企業側も保険料が適切な水準なのかを判断しやすくなる。結果として、損保会社間の調整によって不当に高い保険料が設定される懸念は小さくなる。独立性の高い代理店の存在感が増せば、グループ内保険代理店が抱える利益相反のリスクなども減り、透明性が高まる。
損保は全国に張り巡らせた代理店網を基盤として成長してきた。ただ、専門性が低く、規模も小さい代理店などは、損保の営業担当者による業務代行が必要となるなど負担が重く、これまでも再編や淘汰が進んできた。2000年に約50万店あった代理店は現在、3分の1以下の15万店程度にまで減っている。
専門性の高い代理店が台頭し、シェアを高めていけば、従来型の国内の代理店数はさらに減る見通しだ。中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題のような大型代理店とのゆがんだ関係の解消につながる可能性もある。