脱炭素を目指す保険業界の国際団体「ネットゼロ・インシュアランス・アライアンス(NZIA)」が揺れている。欧州からの離脱が相次ぐ中、国内から初めてSOMPOホールディングス(HD)が脱退した。東京海上HDなども29日に脱退を表明し、国内勢はゼロになる。ESG(環境・社会・企業統治)を巡る米国内の対立が背景にあり、脱炭素に向けた足並みが乱れている。
NZIAは温暖化ガス排出量の実質ゼロ達成に向けた目標設定などを担う組織。2021年夏に仏アクサが議長となり、独アリアンツや伊ゼネラリなど欧州8社で設立した。日本からはSOMPOに加えて東京海上HD、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険を傘下に持つMS&ADインシュアランスグループHDの大手3社が加盟していた。
背景にあるのは、ESGを巡る米国内での対立だ。保守色が強い共和党地盤の州ではESG関連の企業活動に対して懐疑的な見方が広がっている。5月中旬、テキサスなど米国の23州の司法長官が連名でNZIAの加盟社に宛てて「保険会社の気候変動対策に懸念を抱いている」という内容の文書を出した。顧客に排出削減を求める保険会社の動きが独占禁止法に抵触する可能性があるという。「商品やサービスの高コスト化を引き起こし、住民の経済的苦境をもたらしている」ともつづられていた。
損保大手はNZIAへの加盟を続ければ訴訟リスクが高まり、米国のビジネスに悪影響が出かねないと判断したとみられる。各国の事情よりも、脱炭素という共通の目標に向けて取り組む組織だったが、世界一の損害保険市場である米国の政治情勢を無視できなかった。
現時点で国際組織からの脱退が表面化しているのは損保だけだ。「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」に加盟するメガバンクの関係者は「いまのところ脱退するという話は聞いたこともない」という。銀行は米国の地方銀行が参加していないため、米当局から独禁法のリスクを指摘される可能性は低いとみられている。
日本のメガも含めた大手金融にとっては、国際的な枠組みがあれば、脱炭素の取り組みで歩調を合わせられる利点がある。損害保険分野については脱炭素に向けた取組みの統一性が薄れ、実効性や機運が低下する懸念がある。