損害保険会社大手が文書などを自動的に作る対話型AI(人工知能)の導入に動いている。
東京海上は補償内容や手続き方法に関する契約者や保険代理店からの照会に対し、対話型AIが社内の情報を収集した上で回答案を自動生成する独自システムを開発中だ。米オープンAIの対話型AI、Chat(チャット)GPTを基に、AIに強みを持つスタートアップ企業と組んで開発を進めている。回答案をそのまま契約者に提出するのではなく、社員が案を参考にしながら回答する仕組みにする。業務時間を3~5割程度削減でき、ミスの防止や回答にかかる時間の短縮につながるとみている。
保険分野では専門用語が多いうえ、特約の有無、事故の状況などによって契約者への回答内容も異なる。営業社員の業務の1~2割は照会への対応が占めており、保険商品の約款など大量のデータをAIに学習させ、業務を効率化する。
損害保険ジャパンは対話型AIをプログラミングに活用し始めた。社内のエンジニアがコードを書く時間を短縮でき、システム構築のスピードが上がったという。今後は数か月以内に営業分野の社員にも利用を広げる方針で、約款の要約などAIに任せられる作業の選定を進めている。
三井住友海上火災保険も、照会への応答を効率化するため対話型AIを導入する。4月にも実証実験を開始する。回答マニュアルの検索システムはあるが、AIの活用で対応の早さと精度の向上を狙う。あいおいニッセイ同和損害保険も、照会対応への導入に向けて実証実験をする方針だ。
一方で、情報漏洩のリスクを抑えるため、各社は慎重に利用する範囲を見定めていく。契約者の名前など個人情報を入力しないルールも設定する。東京海上は入力情報が外部に流出しない仕組みとなっている日本マイクロソフトのクラウドサービス「Azure」を活用する。損保ジャパンは外部と情報をやりとりせずに対話型AIを使用できるようにした。
自然災害に伴う保険金の支払い増加など、損保業界を取り巻く環境は厳しい。火災保険や自動車保険といった主力商品の内容で他社に差をつけるのは難しく、効率化が経営の焦点に浮上していることも、対話型AI活用の背景にある。