東京海上ホールディングス(HD)が人工知能(AI)を開発できる高度人材の社内育成を進めている(データサイエンス・ヒルクライム)。グループ内で選抜された社員が、8か月かけて深く学ぶ。卒業生が開発したAIシステムで保険の成約率が高まるなど成果も出始めた。AI人材は争奪戦が続いている。現場の課題を知る人材を鍛えて、精度の高いサービス開発に生かす。
2019年度に始めたデータサイエンス・ヒルクライムは、毎年5月から翌年3月初めまで11、12月を除く約8か月間にわたり、230~240時間かけてAI開発の知識と技能を習得する。対象は東京海上グループ内で選抜された20人の社員とほかの企業からの参加者10人の計30人だ。外部受講者(不動産や化学メーカーなど様々な業種から年10人程度が参加)がいることで緊張感が生まれるとのこと。
「保険業界もAI人材を求めているというニーズが人材市場に届いておらず、思い通りに採用できなかった。自前で育成するしかなかった。」(東京海上HDのデジタル戦略部・佐藤竜介マネージャー)
AI研究の第一人者として知られる東京大学の松尾豊教授やAI人材育成のスタートアップの協力を得て当プログラムは作られた。
ヒルクライムの卒業生が開発したAIはすでに東京海上のサービスに展開され始めている。生保6種と損保11種を組み合わせて勧める「超保険」で、おすすめの保険を推薦する「超AIプランニング」に実装される。顧客の職業や家族構成、保険に対する好みなど最大92項目を入力すると、顧客と類似する属性の人々が入りやすい保険を抽出し、おすすめ順に示してくれる。
AIの開発を丸ごと外部に委託してしまうと、現場社員に使い勝手の良いシステムになるとは限らない。さらにトラブルが起きたとき、社内に理解している人がいないと、知見がたまらず長期的な成長が見込めない問題もある。特に会社の業務の重要な部分にAIを使う場合、業界やその会社の業務を理解した社内の人材が開発に関わる必要がある。このように、AIを使いこなし、その業界特有のデータの取扱いにもたけた人材の社内育成が注目されている。