三井住友海上火災保険と東京海上日動火災保険の損害保険大手2社は、月の調査などで発生する損害を補償する保険を開発する。月に探査車を送り込むための着陸機の故障などを補償する。まず2022年中にも月面探査事業に参加する企業に提供する。民間企業の月面ビジネスへの参入を後押しする。
月面探査は地球から打ち上げたロケットから宇宙空間で着陸機を切り離し、月への着陸後に探査車を分離させる。着陸機が月の軌道に入れなかったり、着陸時の衝撃で破損したりするリスクがある。探査車も輸送中の振動や、月面の細かい砂を吸い込んで故障するリスクもある。
三井住友海上は着陸機向けの保険を開発する。着陸機が月面に到達できなかった場合、保険金を支払う。事業者の損失額はロケットの発射にかかる費用を含めて100億円規模に上る。保険金100億円に対し、保険料は1回の打ち上げあたり10億円程度を見込む。
東京海上は月面探査車向けの保険を組成した。探査車が月面で稼働しているかどうかを確認するために、月面から写真を撮影して地球に送信してもらう。画像が届かない場合、探査車が稼働していないとみなして開発企業に保険金を支払う。
三井住友海上はまず着陸機などを開発するスタートアップのアイスペースに保険を提供する。アイスペースは今年中に月へ着陸機を送り込む計画だ。東京海上は探査車開発の新興企業、ダイモンの機器に保険をかける。ダイモンも年内にも自社の無人探査車を米国企業の着陸機に搭載する予定という。
損害保険ジャパンを含めた国内損保はこれまで人工衛星向けなどの保険を手がけており、月面探査事業向けは珍しい。人口減などで主力の自動車保険や火災保険の市場が縮小しており、宇宙向け保険を新たな収入源に育てたい考えだ。
従来の国家予算を使った宇宙開発から、今後は民間企業による月面ビジネスが拡大する見通し。トヨタ自動車などが有人の月面探査車を開発するほか、清水建設など大手ゼネコンが月面に居住施設などを建設する手法を研究している。月面ビジネスの市場は36~40年の5年間の合計で最大478億ドル(約6兆円)に膨らむとの予測もある。
月面ビジネスの拡大に伴い、スタートアップなどの参画も増え、月探査のリスクを補償する保険の需要は増える可能性がある。宇宙ビジネスに詳しいTMI総合法律事務所の新谷美保子弁護士は「スタートアップを含めた企業は保険を適切に手配し、倒産に直結する過大なリスクを負わないようにする必要がある」と指摘する。