国際貿易でやり取りされる船舶や貨物にかける海上保険(注1)で、ウクライナ周辺の黒海やアゾフ海を行き来する場合の保険料が上がる可能性が出てきた。英ロイズ保険組合などがウクライナ周辺を「リスクの高い地域」に指定し、保険料の基準を引き上げる検討に入る。ロイズなどが基準を引き上げれば、国内の損害保険各社も同海域の保険料を上げる公算が大きい。
軍事行動に伴う被害は通常は支払い対象外とされており、戦闘に巻き込まれたり機雷に触れたりした場合にも補償を受けるには、主契約に上乗せして「戦争保険」に加入する必要がある。戦争保険は船舶が航行する海域を「一般水域」とイランやソマリアなど危険度が高い「除外水域」の2つに分ける。保険料は除外水域の方が高くなる。
東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険の3社は3月からウクライナ周辺を「除外水域」に指定する方針を決めた。ロシアの黒海沿岸の主要港、ノボロシースク港も対象に入る。今後、除外水域を航行する際は事前に保険会社に通知し、補償条件や保険料を確認する必要がある。
対象種目は船体を補償する「船舶保険(注2)」と、船体が稼働不能となった場合の経済的損失を補償する「船舶不稼働損失保険」だ。対象は今後、輸送中の積み荷を補償する「貨物保険(注3)」にも広がる可能性がある。戦争保険料の高騰は海運業者などの負担増になるほか、運搬コスト増から天然ガスなどの資源価格にはね返る可能性がある。
背景には海外の再保険(注4)市場の警戒感の高まりがある。世界最大の保険市場を運営するロイズを中心とした英国の委員会は2月中旬、ウクライナ周辺を「リスクの高い地域」に指定した。同委員会が情勢に応じ変動させる割増保険料は国際的な目安になる。航行量の多いホルムズ海峡で2019年にタンカー攻撃が続くと20倍にまで高騰したという。
【海上保険について】
海上保険(注1)では、沈没・転覆・座礁・座洲・火災・衝突等の海上危険によって船舶およびその貨物に生じた損害に対して、保険金が支払われる。
海上保険の契約者は、海上運送事業を営む海運業者・貿易業者である。海運業者・貿易業
者等によって利用されていることから、企業保険的性格の強い保険である。
海上保険は、その対象により、船舶を対象とする船舶保険(注2)と、貨物を対象とする貨物海上保険(注3)に分けられ、さらに、貨物海上保険は、国際間の運送貨物を対象とする外航貨物海上保険と日本国内相互間を海上輸送およびこれに付随して陸上輸送される貨物を対象とする内航貨物海上保険に分類される。
海上保険は、船舶、積荷が海上を盛んに移動し、取引が行われることから、国際的な性格
を有する保険であり、国際間貨物の輸出入に伴う事故による損害を保険会社に負担させることにより、貿易当事者に信用を供与し、国際的物流を促進するという機能がある。
また、危険の平均・分散をはかるため再保険(注4)機構が国際的に高度に発達している。
わが国では、天然資源や原材料を海外から輸入し、製品として海外へ輸出するという貿易
政策がとられているが、実務上貿易貨物には貨物海上保険を付保することが当然の前提となっている。