政府は企業の海外貿易で生じる損失を補償する貿易保険制度(注)を見直す。新型コロナウイルス感染症や自然災害が原因で海外事業の中断を迫られた際に、企業に生じる追加経費を保険金の支払い対象に加える。貿易保険法改正案を今国会に提出し、2022年中の施行を目指す。
(注1)貿易保険制度は海外進出した企業に生じた損害を補償する制度。日本企業が海外進出を企図した場合、懸念となるのが相手国の状況である。戦争や革命、内乱、テロなど、当事者ではどうすることもできない不可抗力リスク、それをカバーするのが貿易保険だ。元々は政府(経済産業省)が運営してきたこの事業を2001年に政府全額出資の日本貿易保険(NEXI)が受け継いだ。
その後、2005年から民間の保険会社にも一部開放され、損害保険会社で「輸出取引信用保険」として販売されている。
現行法では保険金を支払う対象は戦争や革命、内乱が原因で損失が生じた場合に限られる。
改正案では新型コロナなどの感染症や自然災害が原因でインフラ輸出企業などが現地での建設工事が続けられなくなった場合、従業員の退避にかかる費用など追加負担を補償できるようにする。
新型コロナ感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)で現地での調達や人材確保が困難になり、企業に巨額の負担が生じる事例があった。感染症や自然災害でも補償できるよう見直し、海外で安定して事業展開できる環境を整える。
このほか、日本企業が海外子会社を通じて再投資した第三国の企業で損失があった場合でも、日本企業本体が受けた損害を保険金の支払い対象にするよう見直す。現行法では直接投資先で生じた損失しか保険金を支払えない。サプライチェーン(供給網)を広範囲で構築する企業が増えており、部品供給などの途絶リスクを軽減できるようにする。