①2021年度世界の自然災害リスクの増大
・英キリスト教系慈善団体「クリスチャンエイド(CA)」が2021年12月27日発表した報告書によると、2021年に世界で発生した自然災害の被害額で上位10件の合計は1703億ドル(約19兆5000億円)に達した(対前年比17%増)。次のような、ハリケーン、洪水などの被害が大きく、世界経済が直面する気候変動のリスクが一段と深刻になった。
・被害が最も大きかったのは2021年8、9月に米国の南部州を襲ったハリケーン「アイダ」で、被害額は650億ドルだった。暴風雨や浸水で多くの家屋が被災し、大規模停電も起きた。
・欧州、中国、カナダで生じた大規模な洪水も甚大な被害をもたらした。2021年7月には欧州で濁流が家屋を押し流し、道路を寸断した。中国・河南省では洪水で300人あまりが死亡した。
・CAは保険仲介大手エーオン集計のデータを使い自然災害による年間の被害額合計が1000億ドルを超したのは11年以降で6度目だと説明している。
②日本の自然災害発生状況
・日本は、外国に比べて台風、大雨、大雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山噴火などの自然災害が発生しやすい国土である。中小企業白書によれば、地球温暖化などの影響を受けて、日本の自然災害の発生件数と被害も近年増加傾向にあり、被害額の割合は世界全体の14%を超える高い水準にあることがわかる。
③損害保険業界に与える影響
・近年、大規模自然災害の発生有無によって、各年度の保険金支払い額は変動するが、自然災害による火災保険の保険金支払いは増加傾向にある。特に2018・2019年度は風災と水災を中心に大幅に増加し、2年連続で1兆円を超える保険金支払いとなった。このような自然災害の頻発もあり、この10年にわたり火災保険の収支は赤字が常態化している。
・結果として、再保険に要するコストの上昇(注1)に加え、巨大災害に備える準備金である異常危険準備金(注2)の残高も枯渇状態にある。
(注1)損害保険会社は事業成績の安定化等の目的で、自然災害リスクなどに対して再保険の手当てをしているが、度重なる大規模自然災害の発生に伴い、足元では再保険料が急騰している。
(注2)大規模自然災害が発生した場合の巨額の保険金支払に備えるため、保険料収入から一定額を積み立てる準備金のことをいう
・多くの損害保険会社は、損害保険料率算出機構が算出する参考純率(注3)を基礎として、自社の保険料率を算出している。近年の自然災害による支払保険金増加等の理由により、参考純率は水準引上げ(注4)が続いている。
(注3)参考純率とは、料率算出団体が算出する純保険料率(保険料のうち保険金の支払いに充てられる部分)をいう。料率算出団体の会員保険会社は、自社の保険料率を算出する際の基礎として、参考純率を使用することができる
(注4) 参考純率は水準引上げ
④損保業界による防災啓発活動の推進および損保各社の損害査定体制の強化
・上記のとおり、近年の大規模自然災害の発生による火災保険の保険金支払い増加に対応するため、日本損害保険協会、および損保各社は次のような取り組みを推進している。
・日本損害保険協会はハザードマップ活用による啓発活動や、自然災害を補償する損害保険のチラシ作成などを通じて、水災補償の必要性を消費者に対して訴求する活動を行っている。
・損保各社は人工衛星やドローン、スマートフォンなどのIT(情報技術)を積極的に活用し、被災状況の確認と迅速な保険金支払いに役立てる。(例えば、スマホで市区町村ごとの被害予測を表示する地図サービスを通じ、避難場所や避難所の混雑状況を公開。災害発生直後から、被災地の衛星画像を撮影。画像を基に被害の範囲や浸水の深さを特定し、補償対象かどうかを無人で確認等)