・自然災害の多発に伴い、世界の損害保険各社がリスク分散の多様化を急いでいる。再保険大手のスイス再保険によると、大災害に伴う保険損害額は2020年に830億ドルと前年比32%増えた。
・日本でも損保会社向けの風水害の再保険料率は2021年に前年比1割上がり、過去25年で最高値圏になっている。
・再保険とは、保険会社がリスクの分散や収益の追求を目的として、保有する保険責任の一部または全部を移転し、別の保険会社がそれを引き受ける(保険会社同士でリスクを軽減する)保険のことをいう。このように、保険の引受先は保険会社に限られるため、抱えられるリスク量にも限界がある。
・このため、急増する災害リスクを低コストで分散する手法として「大災害債」を発行する動きが広がっている。
・大災害債はキャットボンドとも呼ばれ、対象となる災害が償還期限までに起きなければ投資家は元本と利息を得られるが、災害が起きれば投資資金の一部または全額が発行体に残る仕組み。
・米再保険仲介大手ガイカーペンターによると、大災害債の年間発行額は2020年に108億ドル(約1兆1770億円)と過去10年で2.3倍に急増し、2020年末の発行残高は300億ドルと10年で2.5倍に増えた。
<大災害債・キャットボンドの特徴>
・大災害債・キャットボンドとは、損害保険会社が大規模自然災害の補償による損失の発生
を避けるために売り出す債券のこと。大型台風の風速、大地震の震度などの基準を定め、期
限内にそれを上回る大災害がなければ投資家は元本と高い金利を受け取る。災害の規模に
よっては、元本を失うこともある。発行主体も保険会社にとどまらない。
・大災害債・キャットボンドはより高い利回りを求める投資家にとっても恩恵は大きい。軒並み1%を下回る先進国の長期国債や同程度の格付けの社債に比べ利回りが高い。発災時の損失額は大きいが金融市場との相関関係が低い金融商品はリスク分散先として注目される。
・大災害債・キャットボンドは主に保険リスクを証券化した保険リンク証券(ILS)を専門に扱うファンドなどが購入する。ILSファンドには年金基金や政府系ファンドなど機関投資家が投資し、受け皿の裾野は再保険に比べて広い。
・大災害債・キャットボンドは英領バミューダやケイマン諸島に特別目的会社を設立して発行する場合が多い。近年はシンガポールや香港といったアジアの国際金融都市が発行拠点の覇権を争う。シンガポール政府は同国で大災害債などのILSを発行すると最大200万シンガポールドル(約1億6400万円)の補助金を出す制度を2018年に開始。香港も同様の補助金制度を2021年3月末から導入している。
<日本の大災害債・キャットボンドの実例>
・SOMPOホールディングスは3月末、傘下の損害保険ジャパンと海外中核会社を通じて4億ドルの大災害債を発行した。今後4年間の日本の風水害に備えるための2億ドルと、北米の地震に備える2億ドルを別々に売り出した。この債券は日米で補完し合うのが特徴だ。日本で災害が起きると、日本側の債券はその対応資金に使う。2億ドルを超す規模の災害が起きると、もう一方の北米側債券が自動的に日本の災害をカバーする。
・金利は日本が2.25%、北米が4%だが、両方をカバーするようになると、災害が起きていない地域の債券は金利が6.25%に上がる。日本で発災した場合、日本側債券の投資家に資金は戻らないが、北米側債券の投資家に6.25%の金利が付く。災害後に再保険価格が高騰するのに比べ、コストをあらかじめ確定できる。