大手損害保険会社が宇宙保険の開発に力を入れている。世界の宇宙ビジネスの市場規模は2030年代に100兆円を超えるという試算もある。各社は月面探査など宇宙での事業展開を目指すスタートアップ企業などと連携しながらリスク分析などのノウハウを蓄積し、将来の宇宙旅行時代に備える。
【宇宙保険の種類は幅広い】
例えば、打ち上げ前までの地上において、輸送過程などでロケットや人工衛星の損害を補償する「打ち上げ前保険」、打ち上げてから宇宙空間に達するまでを補償する「打ち上げ保険」、宇宙空間に達した後の損害をカバーする「寿命保険」、ロケットの打ち上げなどをきっかけに生じた第三者への損害賠償責任をカバーする「宇宙賠償責任保険」などだ。
【宇宙保険の難しさ、リスク計算】
火災保険や自動車保険では、すでに大量の契約や支払いに関するデータがあり「大数の法則」を適用できる。しかし宇宙保険はまだ実績が少ないため、オーダーメイドとなる。1件でも事故が起きてしまうと億円単位の多額の保険金が発生する可能性があり、翌年の保険料は急上昇する。事故が無ければ料率は下がるものの、比較的変動幅は大きいと言える。海外では、収益性が見込めないことやボラティリティーに対する懸念があるとして、宇宙保険からすでに撤退した保険会社もある。
【将来性、市場規模】
それでもなお多くの保険会社が宇宙ビジネスに関心を寄せるのは、その成長性への期待があるからだ。米モルガン・スタンレーによると、宇宙産業の市場規模は、衛星ビジネスの拡大などを背景に30年代には年100兆円を超える見通しだ。その先に本格的な宇宙旅行や月面でのビジネスが控える。
【損保会社の取組事例】
三井住友海上は2022年、スタートアップのi spaceと共同で世界初となる「月保険」を開発した。ロケットの打ち上げから月面着陸までに発生する損害を切れ目なく補償するというもの。月までの航行や着陸が達成できなかった場合などに保険金を支払う。
東京海上日動火災は、月面の無人探査を目指す宇宙ベンチャー、ダイモンのプロジェクトを支援するため、英保険会社ビーズリーと月保険を共同で開発し、2022年にダイモンと契約を結んだ。海外の保険会社とリスクを分け合うことで、保険提供の持続可能性を見据えたもの。
損保ジャパンは2023年4月、宇宙事業を専門的に担う「宇宙産業開発課」を新設した。これまでは航空会社や空港、旅行業者など向けの保険商品を開発・販売する部門が宇宙領域も同様に担当していたが、宇宙ビジネスの盛り上がりに備え、部署を独立させた。これに先立って1月には宇宙ベンチャーのワープスペースと資本業務提携、宇宙ゴミの少ない「中軌道」に向けて早ければ2024年に光通信用の中継衛星を打ち上げる予定だ。