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船主の責任どこまで スエズ座礁「賠償1100億円」 今治の正栄汽船、負担増す可能性 (2021/4/3日経記事を中心に)

エジプトのスエズ運河で発生したコンテナ船座礁事故で、10億ドル(約1100億円)ともいわれる損害の賠償責任が注目されている。事故原因は調査中だが、船主である今治造船グループの正栄汽船(愛媛県今治市)の負担が重くなる可能性がある。航行を遮断され輸送が遅れた他の船から賠償を求められる恐れや、運航会社の台湾の長栄海運(エバーグリーン・マリン)の社会的責任も問われかねない。

運航会社のエバー社の経営トップは1日、「今回の事故は輸送時に起こったものであり、その場合は(正栄汽船との)契約で船主が責任を負うことになっている」と説明した。これに対し、正栄汽船は2日、「離礁のための救助費用などは、船主である正栄汽船のほか、荷主、運航会社が負担を分担する『共同海損(注1)』という枠組み下で費用分担する」とコメントした。

(注1)共同海損とは、航海中に生じた損害あるいは費用をその海上事業に加わっている関係者(船主や用船者、荷主等)で分担しあうという制度。共同海損の原則や精算方法は、ヨーク・アントワープ規則(Y.A.ルール)という統一国際規則に規定されている。

 

船主は一般的に海難事故に備えて船舶保険や船舶不稼働損失保険に加え船主責任保険(P&I保険)(注2)に加入しており、これで損害額をどれだけ賄えるかが焦点だ。正栄汽船は「10億ドルの根拠は分からないが、損害賠償を求められた場合は保険で対応することになる。保険で対応できる金額かどうかはまだ分からない」とする。海難事故では船主の責任に上限を設ける「船主責任制限条約(注3)」もある。

(注2)船舶保険船舶不稼働損失保険は、海難事故による本船の損傷修繕費や他船との衝突賠償金、不稼働期間中の経済的損失をカバーするが、海難事故によって発生した人身事故や港湾施設等の損傷について損害賠償請求を受けたことにより被る損害についてはカバーされない。このような船舶所有者あるいは船舶運航者が、船舶の運航、使用または管理に伴って賠償責任を負担したり、費用を支出することによって被る損害に対して保険金が支払われるのが船主責任保険(P&I保険)である。

(注3) 船主責任制限条約

船舶所有者、船舶貸借人、用船者などが自己の責任を一定額に制限する制度は、古くから各国が自国の海運企業を保護育成するために、独自に設定してきたが、これらの船主責任制限制度を国際的に統一したのが、1957年にブラッセルで採択された「海上航行船舶の所有者等の責任の制限に関する国際条約」(1957年船主責任制限条約)である。その後も責任限度額などの改定が行われている。

 

もう一つは、スエズ運河の航行を遮断したことで、他の船の荷主などから賠償責任を求められる懸念があることだ。ただその際は遅延が損害に直接つながったという因果関係を証明する必要があり、「過去の判例上、かなりハードルが高い」(海事弁護士)という。

エバー社が社会インフラを広く混乱させたとして、社会的責任を問われる場合もある。

20年7月に長鋪汽船(岡山県笠岡市)が所有する大型貨物船がモーリシャス沖で座礁して起きた燃料油の流出事故では、船をチャーターしていた商船三井は社会的責任があるとして基金設立や再発防止策を講じた。船主でなくチャーター側の対応としては異例だった。

今回のスエズ運河の座礁事故では環境被害はなかったものの、欧州と中国を結ぶ最短航路を封鎖され、市場に影響を与えた。新型コロナウイルス禍で供給不足が相次ぐなか、問題視される可能性がある。

 

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