新型コロナウイルス禍をきっかけに、働けなくなるリスクに備えたいと考える人が増えている。長期の入院や療養をすれば収入が大きく減ってしまう。現役世代では死亡より病気やケガで働けなるリスクの方が高いとされる。収入がなくなったり減少したりするのは一緒だが、働けなくなる方が家計のバランスが崩れる可能性が高く、生活費はあまり変わらないのに治療費などがかさむからだ。
①公的保障
公的な支援では健康保険の「傷病手当金」や年金制度の「障害年金」がある。ただ傷病手当金の支給は給与の3分の2、通算で1年6か月に限られる。しかも対象は健保に入る会社員などで国民健康保険の自営業者には原則としてない。障害年金も受給のハードルが高い。就業不能保険はこれらの制度を補う目的で2010年に始まった。年収などを基に給付金額を決め、働けなくなったら受け取る。
②生命保険
生命保険会社の「就業不能保険」も不足資金を補う選択肢のひとつで、公的保障制度(傷病手当金や障害年金)を補う目的で2010年に始まった。就業不能保険は、病気やケガの治療による長期間の入院や在宅療養などによって働けない(就業不能)状態になった際の収入が減少するリスクに備えるための保険。近年、就業不能保険を提供する保険会社が増えてきている。その要因として、晩婚化、非婚化に伴って働く単身世帯が増加したことや、病気やケガの長期入院、退院した後も在宅療養が長引いて「働けなくなるリスク」に備える必要性を感じる人が増加してきていることなどが挙げられる。
就業不能保険では、働けない状態が永続化してしまった時に、長期的な保障が受けられるが、「令和3年度(2021年度)生命保険に関する全国実態調査」(生命保険センター)によると、世帯加入率が18.4%(特約含む)で、医療保険・医療特約の世帯加入率93.6%と比べると低い水準だが、今後加入率は上昇していくものと考えられている。
住宅ローンの契約者では、がんなどの疾病になると返済が免除になる「団体信用生命保険(団信)」に入っている人もいる。団体信用生命保険とは、住宅ローンの債務者が返済期間中に死亡または高度障害状態になったときなどに、その保険金で住宅ローンの残高が完済される保険。完済された後は、住宅ローンの返済が不要になる。ローンの支払いがなくなれば家計に余裕ができ、就業不能保険の必要性は低下する。
③損害保険
就業不能保険に似た保険として、「所得補償保険」がある。所得補償保険は損害保険会社が取り扱っている保険で、病気やケガなどで働けなくなった場合の収入減少を補うための保険。補償内容は就業不能保険と似ているが、保険金額(注1)や保険期間、補償の支払い期間(注2)などに違いがある。
(注1)所得補償保険の保険金額は契約前の12か月における所得の50~70%であることが多いが、就業不能保険は契約前の年収に応じた上限額を設けたうえで10~50万円のうち5万円単位で金額を設定できるのが一般的。
(注2)どちらの保険も受け取りの際には毎月一定の保険金が支払われるが、保険商品によって支払期間(補償期間)が大きく異なる。所得補償保険は1年更新や5年更新などが一般的で、更新の際に毎月の保険料が高くなる場合がある。一方、就業不能保険は、60歳まで・65歳までなどのように一定の年齢までを保険期間とし、その年齢に達するまで毎月の保険料は変わらない。
会社員では勤務先で「団体長期障害所得補償保険(GLTD)」に加入している場合がある。働けなくなったときに保険金が出る仕組みは所得補償保険と同じだ。
免責期間(保険金が支払われない期間)終了後から、例えば定年年齢である65歳まで等、長期間の補償の設計が可能である。
企業は休業補償制度などに則した柔軟な設計により、独自の福利厚生制度が構築できる。求職者が企業を選ぶ際、福利厚生制度が充実しているかどうかは重要なポイントである。企業サイドは、採用・求人要領等でPRし、他者と差別化をはかることができる。