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役員賠償責任保険の販売、5年で2倍 訴訟リスクに警戒強く(2022年9月26日 日経新聞の記事を中心に)

 会社役員賠償責任保険(D&O保険)の販売が伸びている。損害保険大手4社(東京海上日動、損害保険ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和)のD&O保険契約は2021年度に1万件と5年前の2倍に増えた。経営上の失敗を企業や株主から訴えられるリスクが高まっているためだ。ただ、実際の賠償額と比べてD&O保険契約の支払限度額が小さく、海外役員を起用する際の障害にもなり始めている。

 D&O保険は、Directors & Officersの略、Directors(取締役)とOfficers(執行役・監査役等)のための賠償責任保険で、会社役員が、その業務遂行のために行なった行為に起因して、保険期間中に株主代表訴訟や第三者訴訟などにより損害賠償請求を受けた場合に、「法律上の損害賠償金」および「争訟費用」の損害に対して保険金が支払われる。

 企業や役員が保険金の受取人になり、企業が保険料を負担する。支払い対象となる株主代表訴訟は、製品販売の価格カルテルで公正取引委員会が課徴金納付を命令し、過失責任で取締役らに賠償請求するケースなどが想定される。

 福島第一原子力発電所事故を巡る東京電力の株主代表訴訟で東京地裁が7月、旧経営陣4人に13兆円超の支払いを命じた。放射能汚染は損害保険の補償対象外だが、企業に役員個人のリスクを再認識させた。

 積水ハウスでは17年に地面師グループに架空取引で土地購入代金約55億円をだまし取られる事件が起きた。経営判断に誤りがあったなどとして、当時社長だった阿部俊則元会長らは損害額と同額を会社側に支払うよう求める訴訟を株主から起こされている。

 損害保険大手4社の契約状況を集計すると、保険料収入は年々増加して2021年度は165億円と2016年度比で5割弱増えた。「今後も増える見通しで、非上場や中小企業の加入が増えそうだ(複数の損保)」。

 日本企業の限度額は役員全員で10億~20億円程度となる場合が多く、「上場の有無や資産規模によって10億~500億円まで幅がある欧米に比べると低い」(マーシュブローカージャパン)。ただ近年は上場企業を中心に支払限度額の増額検討の依頼が増えている。損保ジャパンによると「大手メーカーが限度額を従来の10億円程度から、20億~50億円に増額を図る動きがある」という。

 支払枠の小ささは人材採用の障害になる。大手損保では、海外企業の買収を契機に海外役員を取り込む動きが増えるほか、多様性の確保に向け外国人幹部を登用する機運も高まっている。その際外国人幹部から「限度額が10億円だと自分や遺族が責任を追及されたら耐えられない」との声がある。大手損保は、すでに一部低リスク企業の限度額引上げを始めているが、さらなる限度額の増額要請に備え、保険リスクを外部に移転する再保険仲介先を増やすなどの対応を検討している。(「保険会社1社の引き受け能力には限界がある。欧米では世界の保険市場に精通した保険仲介者が数十社の保険を活用して巨額の保険取引を提供するのが一般的だ。」(マーシュブローカージャパン))

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