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保険手数料開示は序章にすぎず 金融庁VS銀行の第2ラウンドへ

「自動車メーカーが販売店にいくら奨励金を払っているかなんて開示していない。なぜ投資商品だけ狙い撃ちするのか」。銀行が売る運用型生命保険の手数料開示を迫る金融庁に対し、異口同音に不満を漏らしていた銀行界。結果的には大手行、主要地銀とも相次いで10月から開示に踏み切る。「他行に後れを取るわけにはいかない」「当局ににらまれたくない」など動機はいろいろあるが、まずは動き出す。

 

■「顧客本位」で懸念に対応

投資商品の販売手数料の開示は、金融庁が最重要課題に掲げる「顧客本位の業務運営」の1丁目1番地。金融機関が顧客の意に反し、自らの実入りが多い商品を勧めているのではないかという長年の疑念に端を発している。商品を売ることで銀行がどれだけ収入を得るのか明らかにすれば、消費者も商品を選ぶ際の判断基準が増える。金融庁は「車や家電と違い、形がない投資商品は売る側と買う側で情報の偏りが大きい。手数料を含めた適切な情報開示は不可欠」(幹部)と強調する。

 金融庁は開示を法律などで強制するのではなく、あえて銀行の自主的な対応に委ねた。現時点では10月からの開示を発表する銀行と、「県内で先行も遅れもしたくない」(関東地方の地銀)と横にらみを続ける銀行に二分された。ただタイミングの違いはあれ、今後ほぼすべての銀行が保険窓販の手数料を開示する見通しだ。

金融庁VS銀行界の水面下での戦いは金融庁の完勝。しかし、これで終わりではない。ある金融庁幹部は「保険の手数料開示はキックオフにすぎない」と話す。視線の先にあるのは(1)投資商品全般の説明方法(2)開発から販売に至る金融機関の系列関係に伴う利益相反の問題だ。

 説明方法に関しては、例えば複雑な金融技術を組み合わせた仕組み債。一定の条件を満たした場合に満期前に償還となる「期限前償還条項」や、為替相場が一定範囲内に収まったときしか利益が出ないなど、少なくとも4つから5つの構成要素が絡み合っている。例えば25年満期の社債でも、5年で償還される可能性が高い仕組み債について「5年債」と説明して販売している事例があるという。金融庁は「金融機関はリスクを正確に理解できるような分かりやすい説明をしているのか疑わしい」とみている。

 

■系列金融問題にも照準

 系列金融機関の利益相反問題については、例えばある金融グループの運用会社が投資信託を系列の銀行窓口で販売するケースが分かりやすい。銀行としては系列運用会社の商品を売った方がグループ全体の収益向上につながるが、他社の投信の方が顧客の利益につながるケースもある。本来なら顧客の側に立って投資助言すべき立場だが、系列構造があるために健全な動きが起きにくい。運用会社側も系列銀行での売りやすさを最優先に商品開発するという顧客不在の業務運営につながりかねない。

 手数料開示という分かりやすいテーマではとりあえず当局の意向に沿って対応してみせた金融機関だが、系列の利益相反を防ぐ枠組みづくりなどグループ収益の根幹にかかわるテーマに対してはどう反応するのか。10月以降に再開する金融審議会で第2ラウンドのゴングが鳴る。(2016/9/13日経デジタル)

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