いろいろな保険会社の商品を取り扱う保険ショップが、商品を売るごとに生命保険会社から受け取る販売手数料が高騰している。契約者が年間支払う保険料の合計額に対する手数料の比率は60~90%もざらで、100%に達する例もある。銀行で始まった保険の販売手数料開示の流れが広がるきっかけになりそうだ。
「販売手数料100%」――。ある保険会社が保険ショップに示した書類には、50歳未満の来店客に保険料の払込期間が30年以上の医療保険を売れば、年間の保険料に相当する金額を手数料として支払うと記されている。
月々の保険料が3000円なら年3万6000円を支払う計算。契約者が50~59歳なら92%、60歳以上だと66%に下がる。一概に比べられないが投資信託の販売手数料は約2%、自動車・火災保険でも15~20%程度とされる。
ただこの取り決めは初年度に限られる。保険ショップが得る手数料は、次年度からは保険料年額の2~5%程度に落ち着く。生保は契約時の高い手数料で保険ショップの“売る気”を引き出し、長期にわたって受け取る契約者からの保険料で、初年度の持ち出し分を回収するしくみだ。
ある業界関係者は「100%は破格だが、60~90%に設定している保険会社は少なくない」と明かす。ほかにも生保が販売に力を入れる11月や年度末の3月になると「キャンペーン」と称した手数料の上乗せもある。
手数料競争が過熱している背景にあるのは保険ショップの普及だ。今や国内2000店を超え、生保販売の1割強を占める有力な販売チャネルに育っており、生保には無視できない存在になっている。多様な商品を取りそろえる保険ショップで自社商品を販売員に勧めてもらうのは至難の業。商品でなかなか違いを打ち出すのが難しいなか、手数料を他社より高めに設定するのが販売員の目を引く早道というわけだ。
「高額の手数料を受け取れる保険商品ばかり勧められているのではないか」。保険加入のために来店した顧客の意向をくみ、必要な情報を提供するよう義務づけた改正保険業法が5月末に施行された背景には、消費者側のこんな不信感があった。別の関係者は「もちろん販売側に原因はあるが、手数料漬けにした保険会社にだって非はある」と批判する。
銀行については外貨建て保険や変額年金などの運用型商品で保険会社が支払う手数料を10月から開示する動きが広がりつつある。不透明な手数料を明らかにしようとする流れは、がん保険や医療保険を取り扱う保険ショップにおよぶのではないか。そう身構える関係者が増えている。
(2016/9/13日経朝刊)